病院と葬儀社の「提携」はどういう仕組み?紹介・指定業者・霊安室の関係を公的資料で整理
病院で亡くなると、病院と付き合いのある葬儀社がそのまま葬儀まで担当することがあります。この仕組みについて、公正取引委員会の報告書や病院の公募資料など公的な資料で確認できることと、確認できないことを分けて整理しました。
目次
「病院と葬儀社は癒着しているのでは」という声を、ネットで見かけることがあります。一方で、病院で紹介される葬儀社に助けられたという人もいます。
この記事では、うわさや体験談ではなく、公的な資料で確認できることを中心に、病院と葬儀社の関係を整理します。確認できないことは、確認できないと書きます。
病院で亡くなる人は約3人に2人
厚生労働省の人口動態統計によると、2025年に亡くなった人は1,589,533人でした。亡くなった場所は、病院が64.1%、自宅が16.1%、老人ホームが12.8%です。
出典:厚生労働省 人口動態統計(2025年確定数)
病院で亡くなる人の割合は、2005年の79.8%をピークに少しずつ下がっています。それでも、今も約3人に2人が病院で最期を迎えています。
病院で亡くなると、ご遺体はまず霊安室に移されます。そして多くの場合、数時間のうちに自宅や安置施設へ運ぶ必要があります。この「運ぶ」段階で、家族は初めて葬儀社と顔を合わせることになります。
つまり、葬儀の仕事が生まれる場所の多くが、病院に集まっているということです。葬儀社にとって、病院との関係が大きな意味を持つのは、この構造があるからです。
霊安室と搬送を葬儀社に任せる病院がある
病院の中には、霊安室の管理やご遺体の搬送を、外部の葬儀社に任せているところがあります。
これには、病院側にとっての正当な理由もあります。人が亡くなる時間は選べません。深夜や休日でも、病室から霊安室へご遺体を移し、家族を見送る人手が必要です。ご遺体の扱いに慣れ、搬送用の車を持つ専門業者がいれば、病院の職員は治療中の患者さんのケアに集中できます。
実際の条件の例として、国立病院機構埼玉病院が2023年に出した公募の書類を見てみます。霊安室の管理を担う業者に、次のような条件を求めています。
- 葬祭業として10年以上の実績があること
- 24時間対応でき、病院からの呼び出しに30分以内に到着できること
- 自社のご遺体搬送用の車(寝台車)を持っていること
- 自社に3体以上を安置できる場所と、ご遺体用の冷蔵設備があること
ここまでの体制を、病院が自前で持つのは簡単ではありません。病院と葬儀社がつながりを持つこと自体は、それだけで問題とはいえません。
公正取引委員会が2005年に指摘したこと
この関係について、国の機関が正面から触れた資料があります。公正取引委員会が2005年にまとめた「葬儀サービスの取引実態に関する調査」です。
報告書は、病院から自宅までの搬送を請け負う「病院指定業者」になった葬儀社について、その後の葬儀も請け負える可能性が高く、ほかの葬儀社より「非常に有利な立場」になる場合がある、と述べています。
さらに、事業者へのアンケートで、一部の指定業者が遺族を霊安室に引き留め、説得するなどして、自社との契約を強く促す事例があったとしています。そのうえで、こうした行為は消費者が自由に選ぶことを妨げ、独占禁止法上問題となるおそれがあるとして、事業者に行わないよう求めました。
同じ調査には、消費者へのアンケート結果もあります。
- 消費者モニター1,027人のうち、**81.6%**が葬儀社を事前に決めていなかった
- 亡くなってから葬儀社を決めた228人のうち、**95.6%**がほかの業者と比較していなかった
「紹介料」はあるのか|確認できることと、できないこと
病院と葬儀社の関係で、いちばん気になるのは「病院がお金を受け取っているのか」という点だと思います。
結論から書くと、病院への紹介料について、公的な調査で確認された事実は見つかりませんでした。上の2005年の公正取引委員会の報告書にも、紹介料やリベート(見返りのお金)についての記述はありません。
報道では、こうした話が伝えられたことがあります。雑誌「PRESIDENT」(2009年8月31日号、オンライン版は2010年掲載)の記事によれば、東京都内のある私立病院では、指定業者が年に2,000万〜3,000万円の「寄付金」と、1体につき2〜3万円を払うのが相場だとされています。ただし、公開されている範囲では病院名も根拠となる資料も示されておらず、事実かどうかは確認できていません。15年以上前の記事でもあり、今の病院に当てはまるとはいえません。
お金のやりとりが「ある」とも「ない」とも、公的な資料からは言えません。この記事では、そこを断定しないことにします。
病院側の見直しの例|公募・登録制と勧誘の禁止
一方で、病院の側が、特定の業者だけが有利にならないよう仕組みを整えている例があります。公開されている資料から2つ紹介します。
国立病院機構埼玉病院(2023年)
- 霊安室の管理を任せる業者を公募し、登録した業者の名簿から依頼する仕組みにしています。
- 名簿の登録期間は2年間で、期間が終われば改めて公募するとしています。
- 応募する業者には、搬送などについて遺族に請求する金額の見積書を出すよう求めています。
京都市立病院(令和8年度の仕様書)
病理解剖を行うご遺体の搬送などを業者に任せる際の仕様書に、次のような決まりがあります。
- 業務が終わるまで、遺族に葬儀を勧誘してはならない
- 決められた料金のほかに、遺族から心付けを受け取ってはならない
- 遺族が別の業者に搬送を頼んだ場合は、霊安室で別の業者に引き渡すのが原則
- この契約は搬送までの取り決めで、その後に遺族が行う葬儀とは関わりがないことを確認する
こうした取り組みが全国の病院でどこまで広がっているかは、確認できていません。ただ、「病院で紹介された業者に、葬儀まで頼まなければならない」わけではないことは、こうした資料からも読み取れます。
問題は「悪者」より「比べる機会がない」こと
ここまで見てきたとおり、病院と葬儀社の関係には、病院の業務を支えるという正当な面があります。病院に出入りする葬儀社にも、誠実なところはたくさんあります。
それでも、家族にとって困るのは、比べる時間も材料もないまま、葬儀社が決まってしまうことです。これは2026年の調査でも続いています。
- 燦ホールディングスの調査(40〜80歳の500人)では、約8割が他社と比べずに葬儀社を決めていました。亡くなってから約4割が3時間以内、約7割が半日以内に決めていて、比べなかった理由で最も多かったのは「時間的余裕がなかった」でした。
- 鎌倉新書の調査(喪主などの経験者2,000人)では、自分で葬儀社を決めた人の**87.1%**が、見積もりを1社しか取らなかったか、まったく取っていませんでした。
国民生活センターが2026年に公表した相談事例には、病院から遺体を引き取ってほしいとせかされて依頼し、チラシでは約30万円だった一日葬が、約80万円の契約になったケースもあります。
比べなければ、料金が高いのか妥当なのか、判断のしようがありません。病院でそのまま決まりやすいのは、誰か一人が悪いからではなく、急いで決めざるを得ない状況が重なる構造があるからです。
家族の側でできること
構造そのものは、家族の力では変えられません。でも、その中で流されないための方法はあります。
その場での言い方と、サインの前に確認することは「病院で『葬儀社はお決まりですか?』と聞かれたら」にまとめています。搬送だけを頼むときの流れも、別の記事で説明しています。
事前に1社を選んでおくやり方は「入院中のうちに葬儀社を1社だけ決めておく方法」で紹介しています。いざというときの手順は「病院で家族が亡くなったら:最初の数時間の手順」をブックマークしておくと安心です。
法律では、火葬は原則として亡くなってから24時間を過ぎないとできません。安置したあとで2〜3社に電話して比べる時間は、思っているよりあります。
参考資料・出典
- 厚生労働省「人口動態統計」2025年確定数 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合(e-Stat)
- 公正取引委員会「平成17年度年次報告」葬儀サービスの取引実態に関する調査
- 公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」(2017年3月22日)
- 国立病院機構埼玉病院「霊安室管理業務登録業者の選定についての公募公示」(2023年7月11日)
- 京都市立病院機構「病理解剖体搬送等業務委託仕様書」(令和8年度)
- 国民生活センター「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル」(2026年6月3日)
- 燦ホールディングス 葬儀社選びに関する調査(2026年6月1日発表)
- 鎌倉新書「第7回お葬式に関する全国調査(2026年)」
- PRESIDENT Online「激安葬儀社こそ要注意!」(2010年8月17日掲載、PRESIDENT 2009年8月31日号)
- 墓地、埋葬等に関する法律(e-Gov法令検索)